株式会社 オズ プリンティング

掲載日:2023/3/06 (更新日 2024/6/21)

Vol.7

活版印刷の「あたたかみ」と「深み」を楽しんで欲しい

 

20221月、甲府市中心部 紅梅北通りに登場したオリオン活版印刷室。アンティークな活版印刷機と数多くの活字が展示されたおしゃれな空間で、名刺などを作る活版印刷体験ができる新たなスポットとして注目されています。

 運営する株式会社オズプリンティングの小澤孝一郎社長に、オリオン活版印刷室をオープンした理由やねらい、本業である印刷業のことなどをお聞きしました。

 

株式会社オズプリンティング 小澤孝一郎社長

 

 

創業70年を超える 株式会社オズ プリンティング

 

甲府市中央に本社を置く株式会社オズ プリンティングは、1953(昭和28)年4月1日に創業しました。
「当時は戦後の混乱期。私の祖父がたった一人で、その日の糊口をうるおすために俗にいう“ガリ版印刷”を始めたことが、弊社の始まりです」と話すのは、2016年に代表取締役社長に就任した小澤孝一郎氏です。
ガリ版印刷とは、正式には謄写版印刷という印刷手法のこと。蝋を塗った原紙をやすり版の上に置いて鉄の鉛筆=鉄筆で文字や絵を描いて版を作り、そこへインクを乗せることで蝋が削られた部分からインクが染み出て転写されるという仕組みです。30年ほど前までは教育現場でも学級だよりやテスト、文集を作る際に活用されていたので、覚えている方もいるかもしれません。

 

本社

 

 

小澤社長によれば、オズプリンティングが創業した頃には、謄写版印刷以外にも活版印刷という印刷方法があったそうで、
「書籍や新聞などを印刷していた活版印刷は、角柱の頭頂部に文字や記号を鏡文字で突起させた“活字”を組み合わせて版を作るため、ひらがな、カタカナ、アルファベット、漢字、記号に至るまで、膨大な数の活字を所有していないと成り立ちません。そして、そのためには莫大な設備投資が必要なんですね。祖父は、そういう仕事はできないけれど、手で書くものであれば自分にもできるということで謄写版印刷の仕事を始めたようです」。
活版印刷に比べて謄写版印刷は安く手軽にできることもあり、県庁や市役所を始め多くの企業から文書などの印刷を受注していたそうです。

 

 その後、高度経済成長とともに会社も成長し、現在に至っていると小澤社長。この間、印刷業は社会の進歩と技術の進歩によって著しく変化し、かつては活字と鉄筆にわかれていた版の作成手法も、パソコンの登場によってその垣根は無くなりました。さらに、近年では、ペーパーレス化、すなわち文書や画像を紙に印刷するのではなくそのまま使用しようというデジタル化が急速に進んでいると言います。

 

「近年はそうした影響もあって印刷事業そのものが縮小傾向にあり、1991年に8~9兆円あった市場が、今は3~3.5兆円。この30年間に、3分の1程度になってしまいました。
ペーパーレス化は地球環境を考える上で非常に意義のあることですし、もちろん、ペーパーレス化した方が良いものもあります。でも、なかにはペーパーレス化しない方が良いものもたくさんあると思うんです。にもかかわらずすべてにおいてペーパーレス化を声高に叫ばれてしまうと、我々印刷業者としては少し戸惑いますよね」。
こうしたなか、改めて、印刷事業に携わる会社として、どういったことで世の中に役に立てるのかと考えた結果導き出したのが、印刷の文化や価値を広く伝えるとともに、その活動をまちづくりにも活かしていくということだったと小澤社長。この思いが原点となり、約5年間の構想期間を経てオープンしたのが、「オリオン活版印刷室」です。

 

 

 

 

「印刷文化の継承と、甲府の街ににぎわいを」をコンセプトに、
オリオン活版印刷室を、甲府市の市街地にオープン

 

 2022年1月に正式オープンしたオリオン活版印刷室には、多くの活字と数台のアンティークな印刷機が置かれています。一番大きな機械はドイツ製とのこと。一見インテリアのようにも見えますが、そのどれもが、かつて印刷会社で活躍した本物です。
「ここにある活字やドイツ製の印刷機は、弊社に元々あったものではありません。これらが活躍していた時代にはどれも非常に高価で、弊社には購入できなかったのですね。甲府の中心部にこういったお店を開きたいと考えた時に、やっぱり何か象徴になるような機械が欲しいなと思い、かつて印刷会社で実際に使われていた印刷機を日本中から探し出し、メンテナンスを施して、ここへ持ってきました。もちろん、動かすことも、実際に印刷することもできますよ」。

 

 

 

 

独特の味があり、手作りの温かみも感じられる活版印刷。オリオン活版印刷室では、少量からの活版印刷を受けています。メニュー、案内状、自作の詩集などさまざまな依頼があるそうですが、なかでも多いのが名刺だそうで、
「今、名刺もデジタル化され、スマホで管理するなんて方法もありますが、名刺にはものとしての魅力がすごくありますよね。渡したとき、渡していただいたときのやりとり。おしゃれですねとか、ちょっと変わっていますねとか、普通ですねとか…。それがひとつの話題になり、そこから人と人との関係が始まる。そういう意味では、ビジネスでも大切なアイテムになりますよね」。
日本の文化の一つという側面も持つ名刺。単におしゃれな名刺を作るだけでなく、紙を選び、活字を選び、デザインして、自分らしい名刺を作りたいという人を、日本文化の一つである活版印刷で応援することにも、特別な意味があるように感じられます。

 

活版印刷の名刺

「ショートコースでは、『テキン』と呼ばれる手動式の印刷機を使って、印刷体験をしていただいています。具体的には、こちらで用意したいくつかの型からお好きな型を選んでいただき、お好きな色で、紙袋やポストカードなどに印刷していただきます。もちろん、仕上がったものはお持ち帰りいただけますよ。
この場所を観光スポットにしたいという思いがあり、ふらりと立ち寄ってくださった方が、気軽に挑戦できる体験メニューを用意したいということで、このコースを作りました。県内、市内の方はもちろんですが、県外から遊びに来られた方が『珍しいね』と言って立ち寄り、気軽に印刷体験を楽しんでくれたら嬉しいですね」と小澤社長。
体験した人が自分が印刷した紙袋やカードを持ち帰り、家族や友人に見せながら、「甲府でこんな体験をしたよ」と話したり、それらを使うときにここでの体験の記憶が思い起こされて楽しい気分になれたりと、その場限りで終わらないことも体験の素敵なところ。新しい甲府の魅力になりつつあります。

 

よろず相談窓口としての機能も持っています。
「お店を構えていると、『こうしたものを作りたいんだけれど、相談に乗っていただけますか?』という方々が来られます。多いのは、印刷会社に行くほどのことではないけれど、できればオリジナルのものを作りたいという方々。例えば、『渡した相手の印象に残るような、ちょっと変わった名刺を作りたい』、『ちょっとスパイスの効いたポストカードを作りたい』、『結婚式を挙げるので、雰囲気のあるペーパーアイテムを作りたい』なんてご相談をお受けすることもありますよ。
もちろん、活版印刷には活版印刷ならではの魅力がありますが、そうでない方法でよりお客様のご希望に添える場合もありますので、私どもとしては、お話をじっくりとお聞きして、本社でできることも含めてご提案させていただいています」。

 

 

 

オリオン活版印刷室では、ホームページを作りたいといったWEB関係の相談も受けていて、例えば、お店のオープンに際して、名刺やメニュー、案内チラシのデザインから、印刷物、さらにはホームページの作成まで、一貫して相談に乗ってもらえます。
加えて、店内にはオズプリンティングがセレクトしたおしゃれな雑貨や、オリジナルのカルタなども置いてあり、ショッピングも楽しめます。

 

 「印刷の文化や価値を伝える、そしてそれをまちづくりに活かしていこうということで始めたオリオン活版印刷室ですが、そこには、一般の方と印刷との距離感を縮めたいという思いもあります。というのも、印刷されたものは身の回りにたくさんあるのに、印刷業って一般の方からは少し遠い存在なんですね。我々に仕事を発注してくれている公官庁や企業の方でさえ、印刷会社が何をやっているのか、自分が発注した封筒や名刺、チラシなんかがどんな風に印刷されているのかをご存じないことも多いんです。それは、我々のやっていることがわかりにくいということもあると思うので、まずはこの場所をきっかけに知ってもらえたらとも思っています。
いろんな人に気軽に来ていただいて、『へー、こういう世界があるのね』と思ってもらうだけでも、この店が存在する意義が伝えられるんじゃないかと思いますね」。

 

 

 

 

オズプリンティングとしてのもう一つの挑戦
「山梨デジタル化計画」を推進中! 

 

 ところで、小澤社長には、印刷に携わる仕事をしている会社して、どういったことで世の中の役に立てるのかを考え、挑戦を決めた取り組みがもう一つあります。
「デジタル化です。2019年に社内にWEBデジタルの専門部署を作り、WEBやデジタルコンテンツに関する事業を本格始動しました。どんな商品を扱っているかと言えば、例えば、デジタルサイネージ。平たくいえば、デジタルの看板です。最近は山梨でも、甲府駅の南口とか、山梨中央銀行のロビーとか、いろいろなところで見かけるようになりましたよね。でも、東京へ行くと、駅の構内でも、街の中でも、紙のポスターというのはほとんど見かけることはなくてデジタルの看板が普通になっているんですよ」。

 

 

印刷物と違って随時表示内容を変えることができるため、より多くの情報を流すことができるデジタルサイネージ。使い方次第で、広告の表示と案内板の機能を一台でまかなえたり、見る人によって表示内容を変えたりと、幅広く活用できるのも大きな魅力です。甲府駅南口にも大型ビジョンが登場しましたが、同じようなものが、全国各地にどんどんできているそうです。

 

「普段生活していると、いちいち『ああ、すごいな』なんて思わないし、変化に気づかないまま生活している人も少なくないかもしれません。でも、時代はで確実に変化しています。それはテレビを見ていても如実に現れていて、例えばJリーグの試合でも、会場によってはピッチ看板がデジタルサイネージに代わっているところもありますよ。そうしたなか、ちょっと生意気なようですが、山梨県は遅れていると思うんです。僕は、山梨をデジタル化するお手伝いがしたいと考え、「山梨デジタル化計画」なんて言いながら3年前からいろいろと挑戦しています」。

 

 

デジタルコンテンツを含め、印刷物を取り巻く商品を広げていきたい

 

古き良き活版印刷と、最先端のデジタル化。一見両極端に見えることに同時に取り組んでいる小澤社長。「真ん中のこともまたおもしろくなっていくんじゃないかと思って、あえて両極端のことに取り組んでいるんですよ」と語る笑顔は、イキイキと楽しそうです。
そんな小澤社長に、これからの展望と甲府に寄せる思いも聞いてみました。

 

 「印刷業に囚われず、これからもいろいろな取り組みに挑戦していきたいと考えています。例えばオリオン活版印刷室のような拠点を増やしていけたらというのもありますし、山梨県に本社を置きながら、グローバルにビジネスエリアを広げていきたいとも思っています。昔だったらその場所に拠点がないとできなかったことも、今はインターネットを通して自由につながり、ビジネスが展開できますからね。弊社も、オンラインをどんどん活用して、印刷物やWeb商品を、全国へ、世界へと届けていきたいと考えています」。

 

「私は甲府生まれで、甲府には人並み以上の愛着があります。甲府は歴史のあるまちですし、名前は全国の人に知られている。ただ、どういうまちなのかということがあまり知られていないことが一つの課題だと思います。それを解決するためには、まずはここに住む一人ひとりが自分のまちにもっと自信を持つことが大切なのかなと。『甲府は良いまちなんだ』『ここは素晴らしいところなんだ』と胸を張って発信することで、甲府はもっともっと元気になるし、甲府のファンも増えていくように思います。
 また、まちに賑わいがないことも寂しく感じています。オリオン活版印刷室の狙いのひとつは甲府のまちに賑わいを生むことなんですが、これからもいろいろな方と協力しながら、人でもっと賑わうまちにしていけたらと思っています。
 ところで、全国的に見たときに、甲府は、地理的にも、距離感的にも、文化的にも、ちょっと異色な土地なんですね。だからこそ魅力がある。たくさんの可能性を秘めていると思うんです。そして、それをどう活かすかを考え、ビジネスを通じてそれを実現していくことが、我々世代の使命でもあるとも思うので、これからも頑張っていきたいと思います」。

 

 

 

 

 

 

古い職人さんから使い方を学ぶ

 

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INFORMATION

株式会社 オズ プリンティング

企業名/株式会社 オズプリンティング
所在地/〒400-0032 山梨県甲府市中央3丁目8-10 
電話番号/TEL 055-235-6010
FAX番号/FAX 055-232-4098
E-mailアドレス/info@ozp.jp
ホームページ/HP:https://www.ozp.jp

事業所名/オリオン活版印刷室
所在地/〒400-0031 甲府市丸の内1丁目15-2-1A
電話番号・FAX番号/TEL・FAX:055-234-5527
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定休日/月曜日・木曜日・祝日