株式会社 アルス

掲載日:2023/8/17 (更新日 2023/8/17)

Vol.9

独自の光技術と映像技術を駆使し 世の中を豊かにするものづくりに挑戦

 

世の中には、小さくてもキラリと光る会社があります。今回ご紹介する株式会社アルスは、まさにそんな会社。資本金1000万円、従業員数16名と、けっして大きくはない企業規模ながら、グローバルにビジネスを展開。保有する映像技術を駆使して時代が求める工業用機器や医療機器を次々と開発し、甲府から世界各国へと送り出しています。

2001年の創業から22年。甲府市右左口町にある本社に田中吉久社長を訪ね、これまでの歩みと今後の展望についてお聞きしました。

 

 

 

保有する技術をもとに兄弟で起業
創業3年で、世界最小径のカメラを発表

 

200110月に設立された株式会社アルス。「始まりは、20年以上にわたって映像機器メーカーで設計開発を担当してきた実兄からの、『そろそろ独立しようと思う。一緒にやってもらえないか』という誘いでした」と、穏やかな表情で話す田中吉久社長。当時は40代。それまで全く違う業界で働いてきたため、迷いや不安もあったといいます。

今後の人生を考え、悩んだ末に大きな決断をした田中社長。実兄の吉人氏が開発と製造を、田中社長は経営を担う形で事業をスタートさせ、創業からわずか4ケ月後の20021月には、最初の製品となる工業用内視鏡「スコープビュー」の出荷を開始しました。

その後も順調に製品を開発し、堅調な経営を続けるなか、2006年に飛躍の年を迎えます。その発端となったのは、同年4月に発表した最大外径Φ4ミリメートルのヘッド分離カメラAS-804でした。

「これは、外径が4ミリメートルという非常に小さなカメラです。小型カメラの製造技術は、当時から日本国内でもいくつものメーカーが保持していて、医療用の内視鏡、例えば胃カメラや腸カメラなどを作っていました。医療用の内視鏡には、レンズ意外にも、光源や、病気が疑われる部位を見つけた際に採取するためのマジックハンドのような鉗子が必要です。そうした構造もあって、当時の技術では外径10ミリメートル程度が一般的なサイズでした。私どもが発売したAS-804は、工業用カメラという位置づけではありましたが、医療用機器も含めて当時の世界最小径でしたから、少なからず業界にインパクトを与えることができました」。

AS-804は、それまでのカメラでは設置できなかった隙間や狭い空間に設置することができ、機械本来の動きを邪魔することもないため、作業の流れに一切影響することなく人間の目が届かない場所をチェックできるカメラとして工場の製造ラインなどで重宝され、様々なメーカーから引き合いが来るようになります。

 

▲製品例:ディスポ内視鏡

 

▲製品例:4Kカメラシステムカメラヘッド&システムコントローラ

 

さらに、AS-804が初めて市場にでてからわずか4か月後、AS-804 に光源を付けた工業用アングル付き内視鏡「トルネード・アイ」を発表します。

「カメラは、人間の目と同じで、ある程度の明るさがないと撮影ができません。AS-804にライトを装着したことで、閉鎖された真っ暗な場所を画像を通して見ることができるようになったわけです」。

これにより、細いパイプや管、タンクなどの内部を観察できるようになり、需要は一気に膨らみます。知名度も上がり、同年11月からは産業機器のOEM受託も開始できました。

「このとき受託した多くは、原子力発電所にある原子炉格納容器の内部を観察するための水中カメラでした。原子炉格納容器は想像以上に大きく、その内部は放射線が充満した過酷な環境下にあります。私どもはトルネード・アイを進化させ、その環境に耐え得る水深50メートル対応のカメラシステムの開発に成功しました。それが認められ、原子力プラントメーカーへの供給が始まったのです」。  

 

田中社長によれば、原子力発電所の格納容器には、ごく小さな投入口があり、そこから内視鏡を投入して内部を観察するのだそうで、「投入してしばらくは放射線の影響で画面がチラチラするものの映像を確認できるのですが、次第に振動素子がダメージを受け、そのうち何も映らなくなってしまうんですね。弊社のカメラも、ほんの数回で使用できなくなります。そういったこともあって頻繁に需要のある商品でしたから、おかげさまで弊社の業績も安定しました」。

 創立から6年。会社成長のエンジンが確立し、ようやくホッと一息つくことができたと笑顔で話します。

 

 

晴天の霹靂のような東日本大震災。
会社成長のエンジンを失い、新たな道へ

 

20113111446分、日本は、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の大地震に見舞われます。大きな揺れも然ることながら、それによって引き起こされた大津波、そして福島第一原子力発電所のメルトダウンは、日本中、否、世界中の人々を震撼させました。22000人以上の死者・行方不明者を生み、後に東日本大震災と呼ばれるようになるこの災害は、原子力発電所向けの製品を会社成長のメインエンジンとするアルスにもまた、深刻な影響を与えることになります。

 

「原子力発電所をメインユーザーの一つとする弊社にとって、福島第一発電所の電源喪失事故の影響で、人災ともいわれる重大な放射能漏れ事故が発生したことは衝撃でした。さらに、これが引き金となって原子力発電所の危険リスクが取り沙汰されるようになり、原発の安全神話が崩壊し世論は原発反対の意思を表すようになって、国内の原子力発電所がすべて稼働停止になります。会社の屋台骨を支えていた主力商品の受注が激減し、これは本当に大変なことになったと体が震えました」。当時を思い出し、苦悩の表情で語る田中社長。「原子力発電所の再開を待ってはいられない。何とかしなければ…」。切羽詰まった状況を前に知恵を絞るなか、可能性を見出したのが医療機器産業でした。

 

 

 

「医療機器産業ならば、我々の得意とする映像技術や、それまで主力商品として展開していた光源を持った小型カメラを応用して活路を見出すことができるのではないかと考えました。実は、それまでにも医療機器のOEM受託をし、中間製品であるモジュールを提供してきていましたから、大変な業界だと聞いてはいたんです。聞いてはいたんですが、他に選択肢はないということで、大きく舵を切ることにしたのです。そしてこの決断こそが、新たな試練の幕開けでした」。

 

 

立ちはだかる壁を
ひとつひとつ乗り越えて

 

「医療機器の製造や販売を行うには、いくつものライセンスが必要になります。それは、人体に使用するものゆえの安心と安全を担保するために他なりません。要は、私たちの会社は信頼できる会社です、私たちの製品は人体に使用できる安全な製品ですということを公に証明するためのライセンスなのですね。だからこそ簡単に取得できるものではなく、想像以上の時間も資金も費やすことになりました。『医療機器産業が大変だというのは、こういうことだったのか』と、その段階になって改めて思い知りました」。

医療機器の開発も然ることながら、医療機器製造業者となるために、コンサルタントの指導を受けながら、社内のしくみや生産体制を各々のライセンスの要領に則って整備し、定められた信用機関や検査機関の認定や試験を一つひとつクリアして、認可申請に求められる書類を整えていくことは、容易なことではなかったと振り返ります。

 

加えて、参入を決めた時点でその全体像をつかみ切れていなかったため、失敗や回り道もあったと言います。

「実は、医療機器の集積地となっていた神戸ポートアイランドに事務所を開設したことがありました。東日本大震災が起きた翌月のことです。私どもとしては何とか医療関係の会社とつながることができないかということで、藁をもつかむ思いでメディカルセンターに拠点を設けて3年間頑張ったのですが、なかなか良いマッチングができず20144月に閉鎖したという経緯があります。また、この間、動物用医療機器の方が若干ハードルが低いというアドバイスをいただき、20129月に「動物用医療機器製造業」を取得して、動物の診療に使っていただく内視鏡の製造を始めています」。

 

 

 

 

▲取得した様々な資格

 

さまざまな困難を乗り越え、20162月に医療機器の製造に不可欠な「医療機器製造業」を取得したアルス。同年8月には製造管理に必要なISO9001も取得します。

「その頃から医療機器メーカーからの引き合いが増え、新製品の開発依頼が受注できるようにもなりました」。

こうして始めることができた医療機器のビジネスをさらなる成長軌道に乗せるため、その後も医療機器メーカーとなるべく奮闘を続けた田中社長。「20215月に第二種医療機器製造販売業を取得し、同年10月には念願のISO13485の認証も叶いました。これで、医療機器の設計、製造、販売がすべて担える医療機器メーカーとして、ようやくスタートラインに立つことができたわけです」。

本格参入に舵を切ってから10年、その長かった日々を感慨深げに振り返ります。

 

 

独自の技術を駆使して、
身体に優しい医療機器を開発

 

それから2年。医療機器は、売り上げの7割を占めるまでに成長し、新たな製品の開発にも取り組んでいます。

「弊社の根幹にあるのは、映像技術と光技術であり、創立以来、それらを融合させた新技術の開発に取り組んできました。表面的に見れば、弊社が作っているのは『コントローラを備えた小型カメラ』ということになりますが、重要なのは、我々の技術をいかにその装置のなかに落とし込むか、言い換えれば内視鏡にどのような付加価値を付けることができるかという点であり、そこが弊社の独自性であり、製品の魅力でもあるのです」と田中社長。

 

これまで、さまざまな企業との関係性のなかで、原子力発電所で使用する検査用カメラや、電気・ガスといったインフラ設備の点検や計測に使用する管内カメラといった、工業用機器、あるいは、医療機器として、胃カメラや大腸カメラ、ちょっと変わったところでは歯科医師と共同で齲蝕(うしょく)を見る口腔内カメラやφ0.44mmの細い歯根をみる歯根カメラを開発し、販売してきたアルスですが、これに胡坐をかくことなく挑戦を続けているそうで、新たな商品も次々と生まれています。

 

 

 

 

「当初は、体への負担を抑えつつ体内の様子を観察できるということで重宝された内視鏡ですが、最近は治療をする機能までが内視鏡に求められるようになっています。というのも、技術の進化がそれを可能にしているのですね。

私どもの現在の主力商品は、青い光を発する光源装置です。これは、光で見つけるという技術を使った装置で、膀胱がんの発見や脳の診療および治療などに使用されています。一つ例を挙げると、例えば、膀胱がんは、手術をしても再発が多いといわれるのですが、その原因はがん細胞の取り残しです。ではなぜ取り残してしまうのか。単純に医者が見落とすというケースもあれば、通常の白い光だけでは、隠れたがん細胞を見つけることが難しいという物理的な事情もあります。そこで、そういったことをなるべく減らすために考えたのがこの装置です。これを使うとがん細胞だけが青く光るため、取り残しをかなり減らすことができるんですね」。

 

▲製品例:光源装置

 

次なる挑戦は、光でガンを殺す装置。医療機関や医師との協力関係のもと開発を進めているそうで、

「詳しくはまだ言えないのですが、近い将来、開腹手術をしなくても有効ながん治療ができ、根治を目指せる治療デバイスを開発し、発売したいなと思っています」。

 

 

取引先は世界中に

 

医療の未来を見据え、可能性を探りながら、新たな技術、新たな機器の開発に取り組むなか、取引先は、韓国、インド、中国にも広がっています。

「医療機器産業の業界では新参者ですから、まずは我々の技術を知ってもらおうと展示会に出展したところ、海外のメーカーからコンタクトがあったのが最初でした。最近は、ホームページを通して海外の企業から直接アプローチが来ることも増えています。我々の技術を欲している企業と、甲府に居ながらにして国境を越えてつながれるということは、本当にありがたいですね。具体的なビジネスに発展するまでには、半年から1年という時間が必要になりますし、実際にビジネスが始まれば対面での商談の必要性も出てきますが、少なくともお互いに何をしたいのかということの理解まではウェブミーティングで十分に可能ですから、チャンスはどんどん広がっていると感じます。ちなみに私は英語も他の外国語も話せませんが、ほとんどの場合先方が日本語でアプローチをしてくることもあって、少なくとも最初の段階で言葉の壁を感じることはありません。すでに、英語ができなければ海外に出られないという時代ではなくなっているんだと。世界への扉は誰にでも開かれていることを実感しています」とにこやかに話します。

 

 

 

 

最後に、「我々が今目指しているのは、身体に負担の少ない治療法で人の命を救うことができる医療機器の開発と製造です。そこには様々な困難があり、今後もいろいろな壁が出てくるでしょう。それでも、今この時も、世界のどこかで我々の作った医療機器が誰かの命を救っているかもしれないと思うと、自分の仕事に大きなやりがいを感じますし、心がくじけそうになったときも、やっぱり頑張ろうと前を向くことができるんですね」と、熱く語った田中社長。その力強い言葉からは決意と使命感が感じられ、これからの開発への期待もますます高まりました。

 

 

 

 

 

 

 

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株式会社 アルス

企業名/株式会社 アルス
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